お客様の声

customer's voice

市原:江屹先生の作品にはとにかく今まで出会ったことが無い印象が強く残りました。

江 屹 先生 × 市原 秀一 さん

江 屹 先生 × 市原 秀一 さん

江先生(左)と市原さん(右) 2010年10月 於:作家アトリエ

千葉市内にある先生のアトリエを訪ねて、江屹先生の生徒でもあり、作品のコレクターでもある市原秀一様との対談の模様を取材させていただきました。( 聞き手  顧 定珍)


 

市原:もともと幼い頃から絵を描くことは好きで、小学生の頃には賞を頂いたこともありました。ところが中学に上がると音楽に興味が湧いて、ギターを始めたりして…、絵のほうは先生の教室を知人が紹介してくれるまで、あまり生活に密着していませんでした。
まして水墨画に対して持っていたイメージには、自分が描ける絵とのギャップを感じていましたから抵抗感もあったかもしれません。

江:初めの内は確かに乗り気ではなかったかもしれませんが、もともと素養があったんでしょうね。
成長のスピードが速いことには驚きましたよ。後に公募展でも受賞されていますが、感心するのはいつも自然体で、技法や理屈にとらわれ過ぎない素直さがあることです。

市原:先生の教え方が自由だからということも自分に合っていたと思いますよ。
例えば白い雪の表現がうまくいかないなら、指で描いてしまったりとか、描いている途中で山を逆さにして水に映った構図に変化させたことも…。

江:何か斬新的なものを表現しようとする“あざとさ”が見えてくると不自然になってしまう。 自然体、つまり本能的な表現は、文字通り意識して生み出すものではないんですよね。 絵の表現に限らず、人としても大人になると意外と出来ない、カッコつけてしまうでしょ。教える立場ですが、生徒の皆さんに教えてもらうことも多いですね。

市原:以前先生が、日頃の何気ないスケッチが自身の代表作につながるかもしれないとおっしゃっていましたが、そういった日々の積み重ねを自主制作のカレンダーや作品にも活かして楽しんでいます。先生の作品をコレクションする最初のきっかけは教室に飾ってあった「椿」でした。それ以前に他の作家の絵もデパートなどで時々気に入ったものがあると購入していました。
どの作品も第一印象のインパクトというか直感ですから、名前やタイトルを特に憶えていない絵がほとんどかな(笑)。だけど、江屹先生の作品にはとにかく今まで出会ったことが無い印象が強く残りました。静寂とダイナミックさ、和みの中にも先生独自の哲学が織り交ぜてある…。ウィグルの女性を描いた作品もとても好きですね。

 

 

 

江:お互いに、生徒とかお客様という関係にとどまらない良き理解者という気がします。
例えば、個展に発表した作品の内、新しい挑戦や、冒険的な試みの作品に対しても評価して下さいますね。

市原:個展のたびに新しい発見があることが楽しいですね。3年前の「かまきり」を描いた個展も好きでしたよ。先生がどんどん進化していく過程を目の当たりにしてる感じが味わえて。

江:どんなに有名な作家も、代表作や傑作に至るまでの過程の中で、本当に一筋縄ではいかない試行錯誤、チャレンジが必ずあった上で成り立つものがあると思うし、自分も様々な実験や冒険の先に、最終的な形が結実すると信じている気がします。

市原:だから「いつになったらやろうか」でなく、「思い立ったらやる」なんですね。
仕事が忙しくてなかなか行けなかった中国黄山へのスケッチ旅行の参加を7~8年前そう言って促してくれた先生のお蔭で、現在の糧になったことは多いです。

江:それは絵を通して国と国の文化の違いに興味を持つ楽しさもありますが、異国でする食事や買い物、日常の何気ない会話の中からも多くのことが親しみ学べ、知らず知らずの内に繋がっていますよね。

市原:以前は、中国人アーティストで先生のような作風に、出会ったことがありませんでしたが、最近は中国も日本や欧米と変わらない市場に近い気がします。

先生の絵には、日本という異国で既に20年余り暮らしておられますから、中国だけを拠点とする作家とは違う何かが知らず知らずの内に育まれているんじゃないでしょうか。

江:それは、中国らしい圧倒的なパワーというよりも、微妙な湿度感や空気感に現れたり、身近な草花を愛でる感覚であったり、古き良き物への憧憬であったり…、そこには時にみずみずしさも感じられる魅力がある。
普通の民家の庭にある、例えば「松」や「盆栽」に見る身近な暮らしの中にも豊かな美、小宇宙を作り上げて生活する人々が自然にいることの素晴らしさは
日本特有の文化かもしれないですね。

もちろん昔中国から入ってきたものが今日の日本文化に反映されているのかもしれないけれど、逆に中国では現在失われたものの再発見をさせられる想いが強い。ですから少なからず、影響はあると思います。

作品は、中国的、日本的にとらわれませんが、感動できる作品を描けるようこれからも頑張っていきたいと思います。

 

ギャラリー通信#32(2010年12月) インタビュー記事より