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第10回「孫 家珮 展」に寄せて

第10回「孫 家珮 展」に寄せて

孫 家珮先生との出会いは20年前、東京国際美術展というアートフェアでした。

打上げのパーティーで画家たちが絵画論に夢中になっている中で、お茶をだしたり、にこにこして人の話をきいたり、といった孫先生の様子は、目をひくものでした。画家は表現者ですから自己主張が強いのが当たり前でしょうが、孫先生は温和で、まず人の話をよく聴いてくださる方だというのが第一印象でした。ユーモアのある方だということも後でわかりました。誠実で温厚という人物像は、現在でもまったく変わりません。そんな人柄を映しこんだように、孫先生の描く江南水郷の風景が、穏やかで希望に満ちた空気をたたえているのはご存知のとおりです。

先生の作品のご紹介は10年前、私どもが銀座にシルクランド画廊をオープンした頃にさかのぼります。以来、孫作品に対するお客様のご支持は絶えることがなく、個展も第10回という節目を迎えました。描く風景は、写実技法をもとに、1年間のパリ生活で学んだ印象派の技法も加えられ、心のフィルターを通した「理想風景」の心象画です。お客様が「安らぎ」や「懐かしさ」を感じるのも、清らかな透明感や、観る者をやわらかく包み込むような光があるからかもしれません。それは1日の始まりを告げる明け方の太陽の光のもとで日々の暮らしを営む人々への賛歌を描き続けているかのようです。

昨秋、中国・上海美術館で開催された大規模な個展は、先生にとって24年前の来日以来、故郷・上海での初めての作品発表となりました。日本からはシルクランド画廊のお客様も多数駆けつけ、画家を育んだ場所に、孫作品を愛する人たちが集う、という美しい場が生まれたのです。 どんな素晴らしい作品も「見る人がいて初めて作品に命が宿る」と先生は言います。中国、欧州、そしておよそ四半世紀にわたる日本での生活から、新しい作品が生まれています。

蘇州、ベニスなど各地の水郷や仏像を描いた新作にどんな境地を見せてくれるのか――、皆様のご来廊を心よりお待ち申し上げております。

 

   平成24年9月
                              シルクランド画廊  顧 定珍