アーティストインタビュー

artist now

池田 靖史 先生

池田 靖史 先生

一番思いを寄せる色として、白にこだわっています。

池田:藤田は日本人画家の中でも認知度が高く、もっとも認められている画家ですよね。 藤田の特徴といわれる白色がありますね。 僕の絵は全く違う絵ですが、一番思いを寄せる色として、 白にこだわっています。


● 画家になったきっかけからお聞かせください。

池田:父親も画家だったので幼い頃から常に絵が身近にありました。構図は父親に似ていると人に言われるほど一番影響を受けたんでしょうね。ところが、電気関係にもっと強い興味があって東京電機大学に進学しました。しかし大学に行ってからは美術に興味が出始めました。
もしかしたら僕は周りの皆がやっていることと同じことをできない性質で、美大に行ったら美術はやっていなかったかもしれません。(笑)

何故フランスなのかというと佐伯祐三に対する憧れがあったからですね。1978年頃に没後50年の回顧展で現存している絵をほとんど観たんです。20代の頃の自分には強烈な印象でした。

● パリでの生活はいかがですか?

池田:何度か引っ越しました。11区のボルテールというところに居たときにパリで展覧会活動をしていました。
今は、ミラボー橋の近くに住んでいます。窓からはエッフェル塔が見えますよ。
日本でも個展を開くようになってからは日本に帰る機会が増えています。

● 異国の文化や習慣が壁になったことや、逆に良い刺激になっていることをお聞かせください。

池田:芸術に関してはやはり個性尊重というか、上手い下手をとやかく言わない体質を実感しますし、国籍や出自にこだわらない気質にも、彼我の大きさの違いを感じます。人同士の距離感、接し方といったものは日本の常識がほぼ当てはまると思います。様々な手続書類の煩雑さ、物事の進行の遅さなどは、恐らく日本以外ではどこも似たようなものかもしれませんが、戸惑わずにはいられません。

● 佐伯祐三の他に好きなアーティストはいらっしゃいますか?

池田:日本の画家では松本俊介、藤田嗣治。藤田は日本人画家として認知度が高く、もっとも認められている画家ですよね。パリでは今でもすごい人気です。パリに行ってからは尚更惹かれるようになりました。藤田の特徴といわれる白色がありますね。僕の絵は全く違う絵ですが、一番思いを寄せる色として、白にこだわっています。それは、アンドレ・マルローが大臣のときに周囲の反対を押し切ってパリを白い街にしたことが影響しています。佐伯祐三に憧れて行った頃には、煤で黒ずんだ風格のあるパリを想って行ったのですが、それがきれいに掃除されていました。僕の絵も次第に白い絵に変っていったんですが、行った当初はパリを去ろうと思ったくらいショックで半年ほど落ち込んでいました。

● 先生の作品では穏やかな光が印象的ですが、それに対して先生の思いは?

池田:「癒される絵ですね」などと言われることがありますが、僕自身はどちらかというと粗削りに近い手法という意識があるんです。フランス人は塗り残しなどがあっても気にせずむしろ切り捨てる部分の描写を大切にする。できれば僕もそのような表現に近づきたいと常に思っています。

● パリ以外では南仏なども描かれていますが、他にもお好きな地方はありますか?

池田:ロワール地方のトゥールという街があって、友人がいるのでよく行くのですが、とてもいいところですよ。そのあたりも何作か描いています。フォンテーヌブローなども然りで、こういった場所を訪れると、例えばカミーユ・コローが何故あのような絵を描いたのかがよくわかる場所です。

● 今後の展望や、日々の制作について一言お願いいたします。

池田:風景に限らず、写実画とは目の前にある情景を矩形に切り取ったもの、ということになりますが、人の目にも記憶にも四角い枠はありません。図学的な正確さなどにはこだわらず、例えば一本の道を端から端まで歩いたとき、あるいは頭をぐるりと廻して四方を眺めた後の記憶、印象といったもの全体を 『従来の風景画のスタイルを崩さずに』一枚の絵にしていくことが出来たら良いな、と思います。

ほとんど180度に近いくらい広い範囲を、相対的には遠くのもの程大きく表すことで一つの画面に納めたりと、自分なりの工夫をしていますけれども、なかなか答えが見つかりません。

描画の形としては、油彩で水彩画のような軽さが欲しくて試行錯誤を重ねています。
筆が走る軽快な画面が理想です。

最も明るい部分は下地の白をそのまま残す様な描画ですが、本描写では不透明で明色を塗り込まないため、実際に色を置く前の段階が制作の半分以上を占めるかもしれません。
でも予め下絵をしっかり作り過ぎると硬い絵になってしまうので、その頃合の見つけどころに苦労します。それでなかなか描き出せずに、傍目には白いままの画面と睨めっこをしていることがよくあります。何故かは分りませんが正方形のキャンバスだとその傾向が出易いです。

● 簡単には見つからない答えを求めて日々の試行錯誤が繰り返されることに、アーティストのあるべき姿勢そのものを感じた取材となりました。一時帰国のお忙しい中、本日はありがとうございました。

 

ギャラリー通信#37(2011年5月) インタビュー記事より