アーティストインタビュー

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盧 思 先生

盧 思 先生

北京で生まれ、中国の美大を卒業後、東京芸大でも日本画を学び今日に至る経歴というアーティスト。三島市のアトリエを訪れてお話を伺いました。
 18歳で中国戯曲学校京劇演劇科を卒業して京劇の俳優としても舞台に立たれた経験をお持ちですが、現在絵を描く上で何か影響を与えていることはありますか?

 観る人々を魅了できるかどうか、感動を与えることができるかどうか、その為に努力や工夫を凝らすという意味では共通していますね。
 北京の大学で中国画を学んだ後、日本画を専攻したきっかけは?

 北京の中央美術学院の卒業を迎えた時に学ぶということに対してまだ物足りないという思いが残り、しかも中国画を追求するよりも何か新たな分野を探求してみたいという理由から日本画を選択しました。歴史上の繋がりも興味深かったですし…
ただし、当初は日本画といえば光琳、北斎、といった江戸時代の美術のイメージがかなり強かったので、来日当初は現代の日本画の全てが新鮮でした。

 

 絵を描くことで表現したいこととは。

 絵を描く原動力は二つありますが、一つ目は自ら感動した体験を多くの方と共有したい気持ちがそうさせるという理由。もう一つは、自分の内面にあるイメージや創造物を形にして表現するという個人的な想いを解き放つことでしょうか。

例えば鳥を描くにしても、見たままを写し取るのではなく、私にはこう見えるといった部分を描き出していくとい
うような・・・

 

 生まれ育った中国の伝統的な表現が日本画に及ぼす影響もあったのでは。

 日本の画材、つまり粒子の粗い絵具や和紙の持つ性質に慣れることで、中国画を描く素材は繊細すぎて扱いが怖くなる時期もありましたが、絵を描くための根本的な中国画に備わったルールやパターンは体で憶えている部分が抜けきれず、むしろ中国的な構図や概念を取り払うべく努力した時期が続きました。ただ、それも行き過ぎたと感じる度に中国画のルールに立ち戻ろうとする自分がいたりして迷いも常にありますが、日本画は色々回り道をした末に見つけた表現手段であることは確かです。

 

 初めの内はルールや基礎が大切ですが、それなりのキャリアを積まれて一歩先へ飛躍する時期を迎えているのではないでしょうか。中国、日本双方の文化を併せ持つ盧思先生ならではの特徴が生まれる楽しみがあります。

 個人的には中国、日本の境なく日々ひとつひとつ自分に出来ることを積み上げていくだけなので、よく聞かれる日中の文化の架け橋のようなことを意識することもないのですが、もし日々の活動が周りの人達に少しでも影響を与えることが出来れば嬉しいことです。

 

 今展では鳥を描いた作品が目立ちますね。

 中国の美大では花鳥画を専攻していましたが、娘の誕生と共に母子像など以前より人物表現にもモチーフの幅が広がるようになってきました。ただ、今回はもう一度原点に帰った花鳥画を意識した内容になっています。
もちろん、娘との日常の中で思い出深い出来事を描く習慣も続いています。

 

〈アトリエで製作中の盧 思 先生〉

 

 ファンの方からいただく言葉でもっとも印象に残っていることは。

 私の作品の前で、「ここに居るとほんとに幸せ」と言われたことはとても嬉しかったです。そのように感じてもらえるような絵を描き続けていきたいですね。

 

 子育てに、大学での講師活動やテレビのお仕事などご多忙な日々ですが、今後の展望をお聞かせください。

 今は絵を描く時間がもっと欲しくてしょうがない気持ちでいっぱいです。今日お話したことも含めて画家として必ず壁に突き当たる時期もあると思いますが、今は推進力のある時期!わずかな時間の合間も縫って、貪欲に制作を続けていきたいと思っています。
母と子を描いた作品の中で、中国や日本の風物詩を取り入れた絵もいつか描いてみたいですね。

 

ギャラリー通信#93(2016年6月) インタビュー記事より