GMご挨拶

GM Message

名作を伝えるということ ~ NYと上海の旅を終えて思う ~

名作を伝えるということ ~ NYと上海の旅を終えて思う ~

NYにお住まいの楊燕屏先生を訪ねる旅は、私にとって久しぶりの美術館巡りの旅でもありました。
グッゲンハイム、MOMA、メトロポリタン、そしてフリック・コレクションにある作品の素晴らしさもさることながら、〝作品を蒐集する.ということについて改めて考えさせられた2日間でした。

ご存知の通り、メトロポリタン美術館は収蔵品ゼロからスタートし、作品の寄贈を募って、 今日の世界有数とも言われるコレクションを築きました。 またフリック・コレクションは、 鉄鋼王フリックが生前に集めた珠玉のプライベーコレクションを、飾られていた大邸宅もろとも公開しているものです。

自分が惚れこんだ作品が、後世に生きる人々にも愛されるようにコレクター達のそんな願いが、 名品の静かな輝きから伝わってくるようでした。 かつての所有者が、美術品を投資対象として考えていたなら、これらのコレクションは実現しなかったかもしれません。 一蒐集家の「自宅に飾って楽しむ」という単純明快なコンセプトが時空を越え、作品の命を現代につないでくれているようでした。

NYから戻って3日後、私は国際アートフェア「上海芸術博覧会・国際近代美術展」を見るため、上海に降り立ちました。中国美術市場の活況を裏付けるように、海外からの出展者も多く、会場内のレイアウトも以前と比べてぐっと洗練されていて、世界中からの期待に応えようという主催者の意気込みを感じました。
目を奪われるような素晴らしい作品もありましたが、反社会的な表現や、目を覆いたくなるようなグロテスクな作品も目立ちました。近年、中国人作家が発表するこうした刺激的な作品は、欧米で高値で取引されており、それに連動して中国の美術市場でも価格が高騰しています。「奇をてらった作品ほど、異常な高値がつく」と嘆く評論家もいるほどです。どんなジャンルにもきっと名作はあるでしょう。しかし首を傾げたくなるような表現が、コレクターの支持を集める現状を見て、私たちが紡ぐべき〝美術史.はどうなるのかと考えてしまいます。
中国の美術界は今、〝投機”という大きな渦に巻き込まれているのかもしれません。



NYと上海の旅を終えて、改めて心に刻んだことがあります。それは、時代の流れに翻弄されることなく、これからも私たちが感動できる作品だけを紹介していくこと、そして、ひとりでも多くの方の笑顔を見続けていくことです。次世代に喜んで引き継いでもらえる、美術史の1ページを作りたい
――これが、私たちの切なる願いです。

 

2007年9月
                        シルクランド画廊  顧 定珍